理科教育研究室(1998〜2008年度)>研究室紹介

本研究室は,1998年10月に新設されました.以下に示すような観点に基づいて,本研究室では「地球環境変遷史の研究とその教材化」に取り組んでいます.

環境教育と自然体験学習に関して

「環境を悪化させないためにどうしたらいいか」は21世紀を生きる私たちと こどもたちが,一人ひとり考えていかなければ解決できない大問題です.しかし,環境に対する考え方は実に様々で,国際会議の場でも意見はまとまりません. 「環境なんてどうなってもいい」とは誰も思っていないはずなのに,なぜうまく意見がまとまらないのでしょうか?

いろいろな理由があるとは思いますが,「今の自然の状態をどうみるか」が人 によって違っていることが大きな原因であるように思います.「既に壊滅的状態」とみるか「まだ,回復可能な状態」とみるかは,現在の自然状態をどう評価す るかにかかってくるからです.

全ての人が共通の認識を持つことができなければ,環境問題は解決できないで しょう.そのためには,先ず自然そのものに関する認識を,単なる知識ではなく,「冷たい」「あたたかい」「つるつる」「ざらざら」といった実感を伴った経 験として獲得しておく必要があると思います.そのための教育の手段,というよりは他の人と自然に関する経験を共有するための方法としての自然体験学習を考 えてみたいと思っています.

理科教育に関して

平成10年に示された新指導要領では,中学校理科から“進化”が高校へと送られましたが,一方では“示準化石”“示相化石”“化石の示す地層の年代や環 境”については取り扱うことになっているままです.進化という概念なしに,化石の示す情報を理解することはできないはずですが,これが学習指導要領の実態 です.ちなみに,現在のような高等学校での教科の選択制の実態では,全員が生物を選択するとは限らないため,実質的に“進化”は学んでも学ばなくてもいい 概念となったことになってしまっています.21世紀を迎えようとするこの時代において,もっとも重要な科学的概念の一つである“進化”が,このような扱い になってしまうことに対して,私達はもっと神経質にならなければならないのではないでしょうか.

理科は,自然を扱う教科です.学校における理科の具体的な教育内容は,文部 科学省の定める学習指導要領に基づいています.しかし,そこには理科教育の“目標”は示されているが“目的”そのものは明示されていません.したがって, たとえば教員各人が教材の精選を行うに当たって,単元のメリハリをどうつけるか,という時の根本的よりどころも示されていないのです.このことは,「なん のために(理科を)勉強するの?」というこどもの問いかけに対する答えを,教員個人がそれぞれに用意しなければならないということを示しています.また,「基礎・基本を大切に」と最近よく聞きますが,理科の基礎・基本ってなんでしょうか?何を大切にして授業を組み立てればいいのでしょうか?これらのことを考えるには,「本質的に重要なことを見失わない教育」を心がける必要があると思います.私達の研究室では,このように「理科で学ぶべきこと は何なのか」を考えていきたいと思っています.

災害・環境教育に関して

現在の教育過程では,災害教育と環境教育について独立した設定が行われていません.したがって,いくつかの教科でこれを扱わなければならいわけですが,特に災害教育については避難訓練などを除くとほとんど取り扱われていない状況にあります.自然を素材とする理科において,災害と環境に関する学習を行うことは効果的であす.しかしそのためには,まず地球規模の自然の運動を知り,地域的な環境の変遷を把握することが必要でしょう.このような観点から,本研究室では,地域的な環境変遷を地質学的・古生物学的な手法により解明し,理科教育だけでなく環境教育や災害教育にも応用可能な教材作成の基礎情報を提供するとともに,そうした基礎研究に自ら取り組むことで,地域的な問題を洗い出して教育活動に還元するための手法を学べるようなプログラムを組んでいます.

1977年の有珠山の災害を教材化したもの

地球史の探究

“地球環境変遷の教材化”は,単にその地域の成り立ちを教えるための教材を作成することにとどまりません.現在の環境を理解して未来の環境を予測するためには,これまでの環境変化のありさまを,地球規模の時間的スケールで把握する必要があります.現在は地球史という分厚い本の最後の一ページなのです.これから書かれるストーリーがどんな展開になるかは,最後の1ページを読んだだけでは想像できません.これまで残されてきたページを読み解き,大局的なストーリーの変化を把握できてはじめて,その本の続きをある程度予測できるはずです.地球環境の未来を予測するのもこれと同じことです.これまでの地球の歴史,すなわち環境変動のパターンなどを理解することなく,ここ数年~数百年という地球史的には瞬間的とも言える期間のデータだけで将来を考えるのは危険です.私達の研究室では,こういった視点で将来の環境変動を考えることができるように,基礎となる地球史の復元にも取り組んでいます.

渡島半島の海岸線の変化(濃青ほど深海.赤は火山活動.左から約1200~500万年前,500~300万年前,120万年前,80万年前)
学会発表した「過去の有珠山の活動により作られた新発見の巨大クレーター」について教材化したもの